佐賀市末広1丁目にある末広東公民館には、人柱となった女性を祀る観音堂があります。
江戸時代の1808年、江戸の幕府政権下にあった日本に衝撃的な事件が起きます。鎖国していた当時の日本において、外国に対して開かれていた港は長崎の出島のみ。さらに、寄港を許されていたのはオランダだけでした。そのオランダと敵対するイギリスの軍艦フェートン号が長崎に侵入。二人のオランダ商館員を人質に船の燃料である薪と食料や飲料水の提供を要求し、オランダ商館を引き渡すよう迫ったのです。完全に平和ボケしていた日本側はこの要求を受け入れ、イギリス側は人質を解放して出航しました。
この頃の長崎警備は福岡藩と佐賀藩が1年交代で行っており、事件が起きた年はちょうど佐賀藩が当番の年。長崎の警備を百人から百五十人の佐賀藩士が担っていましたが、一部資料によると本来は千三百人余を配備していなければならず佐賀藩は警備の怠慢を咎められます。罰として幕府は佐賀藩主鍋島斉直に対し、江戸屋敷への一〇〇日間の逼塞。長崎番所の番頭、佐賀藩士千葉三郎右衛門胤明、蒲原次右衛門好古の二名は切腹。その他にも組頭10名が家禄没収という重い処分を下しました。
そのことが原因となったのかどうか不明ですが、ちょうどフェートン号事件が起きた1808年に現在の末広一丁目にあたる本庄町で即刻座という船を緊急出動させる施設の建設が始まります。
観音堂にかけられていた文章によると、末広東公民館がある末広一丁目はかつて本庄町と向町と言われていました。この場所は佐賀城下町の西部にあり、本庄江川の源であり重要な港町だったそうです。佐賀藩は長崎奉行より、海路を使って急いで長崎へ駆けつける体制の整備を命じられます。
しかし、有明海は潮の満ち引きによる干満の差が大きく、常に船を出すためには大量に水を貯める施設が必要となったのです。この文書では分かりにくいですが、「水を大量に貯水しておく一種のダム即刻座や、一気に切り落とす大きな落差のある戸立が必要」というようなことが書かれているので、干潮で水位が下がった場合でも船が航行できる水位を保つために、出動時にダムから一気に放水し船が航行できる水深を一時的に確保するような施設だったと思われます。
しかし建設は容易ではなく、何度も失敗と崩壊を繰り返します。現場を任された石工も焦りはじめ、工事を完成させるためには人柱を立てるほかないと町内で囁かれ始めました。
そんな時、石工の憔悴しきった姿や、町人たちの心労を知った石工の棟梁のひとり娘が自ら人柱に立つことを申し出ます。町人たちが翻意を促そうと説得を試みるも娘の意志は固く、本庄小町と呼ばれるほど美しかった娘は人柱として散華されたそうです。
末広東公民館。
娘が自らの命と引き換えにした工事は順調に進み、即刻座には満々と水がたたえられました。無事完成をみた町人たちは寄合で話し合い、即刻座の傍に観音堂と供養塔を建立して英霊を祭り現在に至ります。
末広東公民館と奥に建立された観音堂。
観音堂の横にある供養塔。どの塔が何を意味しているのか、勉強不足のために分かりません。いずれ時間に余裕が出来たら、こういう事も勉強していきたいです。
三体の仏様が静かに鎮座しています。
そして二つの塔。
塔の裏には小さな祠が祀られていました。
他にも神様なのか仏様なのか、石仏などが祀られています。
地域の為に自らの命を捧げる。なんとも悲しいお話ではあるのですが、当時の人たちの価値観と現代のそれとは大きく違います。今でも宗教や自ら信じる正義の為に命をなげうつ人たちはいますから、正義とは人それぞれ、育ってきた環境によって培われた価値観で決まるもの。自分の常識を当てはめて考えてはいけません。
もっと詳しく知りたいと思いネットで情報を探してみたのですが、全く情報が出てこないですね。即刻座というのがどこにあったのか、跡地は残っているのか。さらに人柱に関するエピソードや観音堂の事。何かしら出て来るかと思ったのですが、私では見つけることが出来ませんでした。
親を思い、町の人を思い、自らの命を捧げた女性がこの地に居た。とりあえずその事だけでも心に留めておきたいと思います。観音堂に書かれていた文書によると、県立図書館にあった「私の佐賀再発見」という本に書かれていたとあるので、機会があれば探してみます。
この場所は偶然、たまたま歩いていて見つけたんですよ。観音堂に説明がなければ、何のために建てられたものかすら分かりませんでした。こうやって説明が書かれているのは、とてもありがたい事ですね。
末広東公民館へはちょうど与賀神社の一の鳥居の近く、与賀神社方面から西へ向かって一の鳥居手前を左折。
街に残る歴史上のエピソードに出会えるのも街歩きの楽しさの一つ、佐賀を歩くのは楽しいですね。
「末広東公民館の観音堂」
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